アスリートのメンタルヘルス、精神障がい者スポーツについての提言
― 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)世界的大流行のなかで

 

 わたしたち日本スポーツ精神医学会は、これまでスポーツの精神医学への応用を目指し、アスリートのメンタルヘルス向上、精神障害を持つ方々のスポーツ大会の推進や治療へのスポーツの応用の研究の推進などを行ってきました。しかし、昨今のCovid-19(新型コロナウイルス) の感染拡大により、活躍だけでなく練習の機会をも奪われたアスリートの精神的苦悩、それにスポーツを楽しみ、スポーツにより癒されている精神障害を持つ方々やそのケアを行う方に不安や不都合が生じていないか危惧しています。

1.    アスリートのメンタルヘルスへの影響
 

 2020年東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定し、精神的にうちひしがれているアスリートも多いでしょう。わたしたち日本スポーツ精神医学会も大会のサポートのため選手村での活動を予定し万全のサポート体制を作っていたため、大きな衝撃を受けています。プロスポーツも、試合が開催できない苦境に陥っています。社会人スポーツでは、運営母体の経営危機から存続が危ぶまれ、競技はおろか明日からの日常生活を不安視する選手も少なくありません。学生スポーツもインターハイ、インカレも開催の目処が立たず、卒業後の進路やスポーツ推薦入試にも重大な影響が生じ、学生の不安は日々強くなってきています。なにより、トレーニング場所の閉鎖によって日々の練習機会が奪われているストレスは想像に余りあります。
 

 トップアスリートは、競技のために命を懸けています。競技のために、人間関係や仕事、学校、友人関係など、数え切れないほどの犠牲を払っています。既に精神障がいを持ちながら活躍するアスリート、あるいはこれまでは精神的に健康だったアスリートも、以下のような重大な影響を被る可能性があります。

•    既存の精神疾患(うつ病、不安障害など)が悪化する可能性があります。
•    症状が不安定であったり、自殺を考えていたりする場合は、精神科医に相談してください。
•    自傷行為、逸脱行為(アルコール、ギャンブルへの過度の耽溺)
•    病気(Covid-19)の発症への不安:自分自身やチームメイト、家族、友人

 周りの人たちに自分のことを十分に理解してもらいにくいことで、アスリート達は孤独を感じています。共感と理解が、アスリートのサポートとなります。

 Covid-19による日常生活での支障や、試合、練習、ミーティングなどの競技活動の中断によって、体力やメンタルに悪影響が生じているのではないかと心配な場合は、以下のことを確認してください。

•    相談できる指導者、トレーナー、できれば心理カウンセラーに、不安や睡眠含めた生活リズムの問題を相談してみましょう。
•    重度の不安や、気分が低い(または高い)状態が1週間以上続くなど重度の症状の場合、あるいは日常生活に著しい支障をきたす場合は、精神科医に相談しましょう。
•    不眠が2週間以上続く、あるいはパニック発作が頻繁に起こるようになった場合は、精神科医の受診を考えましょう。
•    自傷行為、自殺念慮が発生している場合は、精神科医への受診が必要です。

日本スポーツ精神医学会では、アスリートの精神的問題を治療できる学会所属医師リストを公開しています。受診の際は、参考にしてください。

 

2.    精神障がい者スポーツへの影響
 

 考えられるのはCovid-19に感染してしまうのではないかという直接の不安だけではありません。日本政府より緊急事態宣言が出されたこともあり、感染予防のため予定されていたフットサル大会などが中止になっていると思います。外出の自粛で体を動かすこともままならなくなっていることでしょう。また、多くの場合にチームの母体となり治療の場となっている精神科デイケアも休止せざるを得なくなっているかもしれません。これら日常の楽しみ、治療の場が崩され人との繋がりが損なわれていくように感じるのはとても恐ろしいことであり、不安を感じ、ストレスに感じるのは当然です。
 Covid-19が引き起こす不安やストレスに対処していくのは簡単なことではありません。対処法の参考となるものとしては、以下のようなものがあります。

・日本うつ病学会
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行下における、こころの健康維持のコツ」として以下の学会が発表した提言の日本語訳を掲載しています。  
 (https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/2020-04-07-covid-19.pdf)

 

〈1〉国際双極性障害学会:時間生物学・時間療法タスクフォース
(International Society for Bipolar Disorders; ISBD)

 

〈2〉光療法・生物リズム学会
 (the Society for Light Treatment and Biologic Rhythms; SLTBR)

 

 この中では、コツとしてCovid-19流行下でもこれまでに近い規則的な生活を送ることが推奨され、人とコミュニケーションをとることが推奨されています。

 

・災害や紛争など緊急時に人道支援や精神保健・心理社会的支援に関わる国連機関であるIASCはブリーフィング・ノート「新型コロナウイルス流行時のこころのケア」を公表し日本語訳が公開されています。
 (https://interagencystandingcommittee.org/system/files/2020-03/IASC%20Interim%20Briefing%20Note%20on%20COVID-19%20Outbreak%20Readiness%20and%20Response%20Operations%20-%20MHPSS%20%28Japanese%29.pdf
 この中では、Covid-19感染拡大における緊急時のメンタルヘルスと心理社会的支援(MHPSS)として、様々な立場の人たちや様々なストレス度合いの人たちに援助を行うにあたっての助言が詳細に記されています。特に協調することの重要性が明確にされています。

 

 強い不安を感じている方は、これらを参考にするとともに主治医やケアをしてくれる方によく相談するようにしてください。

 わたしたち日本スポーツ精神医学会は、今後も現在のCovid-19の脅威に屈することなく、スポーツの精神医学への応用・精神医学のスポーツへの応用の発展に力を注ぎ、精神疾患を持つ方々へのスポーツの活用と競技に向けて努力するアスリートの支援を促進していく所存です。

〔参考資料〕
・Edwards, C and Thornton J. Athlete mental health and mental illness in the era of COVID-19: shifting focus with a new reality. Blog (British Journal of Sports Medicine) March 25, 2020 

 

・日本スポーツ精神医学会 学会所属医師リストhttps://www.sportspsychiatry.jp/blank-9

 

・日本うつ病学会. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行下における、こころの健康維持のコツ, 2020年4月 https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/2020-04-07-covid-19.pdf

 

・ブリーフィング・ノート(暫定版). 新型コロナウイルス. 流行時のこころのケア. Version 1.5.緊急時のメンタルヘルスと心理社会的サポート. (MHPSS)に関する機関間常設委員会(IASC)リファレンス・グループ, 2020年3月
 

                                    2020年4月15日
                      日本スポーツ精神医学会
                     理事長(Chairman) 内田 直

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